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VKsturm’s blog

Twitterの@teslamk2t の長文用

戦争の中の覚醒剤─ドイツ軍における覚醒剤

一応、この記事の続きです。

peoplesstorm.hatenablog.com

 

 

1.はじめに

前回の記事では1950年代にまで市販されていた麻薬含有商品を紹介したが、今回の記事では戦争中に多用された覚醒剤*1を取り扱いたい。現在の軍隊でも「痛み止め」としてモルヒネは一部使用されるが、この他に覚醒剤(主にメタンフェタミンアンフェタミン)は士気高揚やその他の目的で各国で乱用されていた。それらを断片的にであるが紹介していきたい。

 

2.ドイツ軍における覚醒剤の概要

ドイツにおける覚醒剤の代表例がペルビチンである。

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1930年代末、ベルリンのTemmler製薬会社によって開発されたメタンフェタミン*2薬「ペルビチン(Pervitin)」は、すぐにドイツの市販覚醒剤の中でトップの売上となった。『Klinische Wochenschrift(「週刊臨床」)』のレポートによると、アンフェタミンメタンフェタミンの効果は体内で生成されるアドレナリンと同様とのことである。ほとんどの場合、覚醒剤は自信の向上、痛み、飢えと渇きに対して辛抱強さを増すことができ、睡眠の必要性を低減しながら、リスクを取る意欲を向上させるとのことだ。1939年9月には、Temmler製薬会社と軍部らは90の大学の学生に薬を配布し、ペルビチンはドイツが戦争に勝つのに役立つ可能性があると結論付けた。最初ペルビチンの配布は、ポーランド侵攻に参加した軍の運転手・操縦手らでテストされた。そして、犯罪学者ウルフ・ケンパーによれば、それは「無節操に前線で戦う部隊に配布。」され、大きな効果をもたらした。この効果というのは長時間の操縦に耐えうる集中力を運転手らに齎したという「わかりやすい効果」以外にも、戦意の高揚などの間接的効果もあったとされる。

1940年の4月から7月の短い期間の間に、ペルビチンとイソファン(Isophan)─ノール製薬会社によって生成されるペルビチンを僅かに修正した覚醒剤─は3500万錠剤、ドイツ陸軍と空軍に出荷された。錠剤はメタンフェタミン3mgを含んでいたという。これらの覚醒剤はコード名「OBM」の下、国防軍の医療部門に送られ、その後部隊に直接的に分配され、緊急に必要とされた場合には将校らは催促することもできた。パッケージには「覚醒剤」と標識され、指揮官の命令のもと、1〜2錠の用量を推奨した。当時の命令によるとこうだ─「眠らないために、必要なときにだけ摂取せよ。」

その後、覚醒剤の悪影響が頻繁に確認され始めた。孤立した症例では、使用者は過度の発汗や循環障害などの健康上の問題を経験し、さらにいくつかの死亡例があった。レオナルド・コンティ─健康と禁欲主義でアドルフ・ヒトラー政権下の医療部門の親玉─は覚醒剤の使用を制限しようとしたが、それはある程度は成功した。ペルビチンは1941年7月1日に「制限物質」と分類されたが、アヘン法の下で、1000万もの錠剤は同じ年に軍隊に出荷されていた。

ここまで覚醒剤が乱用されたのは効果が軍隊にとって魅惑的だったからだ。1942年1月には東部戦線に駐留した500人のドイツ兵が赤軍の包囲から脱出しようとした。気温はマイナス30度。部隊に割り当てられた軍医は真夜中に「より多くの兵士が、もう雪の上で横になり倒れ始めるほど疲れていた」ことを報告書で書いている。

「部隊の指揮官は部隊にペルビチンを与えることにしました!…半時間後、彼ら(兵士)は再び整然と行進し始めました!彼らが自身の体調について『より良い』と感じていることを報告し、彼らはより良い警戒状態に移行できたのです!」

報告書は、軍の上級医療指導部に到達するまでにほぼ6ヶ月かかった。しかし、その応答は、ペルビチンの新しいガイドラインが発行されるにとどまった。「一度摂取した2個の錠剤(=6mgのメタンフェタミン)は、通常3〜8時間眠る必要性を排除する」とのことだ。

戦争の終わりに向けて、ナチスも自分の軍隊のための「奇跡の丸薬」に取り組んでいた。北ドイツの港町キールでは1944年3月16日にヘルムート・ハイエの下で新しい薬剤が開発されていた。「(新しい薬に求められることは)兵士の自尊心を高めながら、兵士らが正常考えられる時間を超えて長時間戦い続けることだ」。

短い期間の後に、キールの薬理博士ゲルハルト・オジェホフスキーはコードネーム「D-IX」を発表した。これは、コカイン5mg、ペルビチン3mgとEukodal 5mg(モルヒネベースの鎮痛剤)を含有していた。今日では、この強力な薬の劣化コピーを乱用して刑務所送りになることが多いが、当時では薬物は、海軍の潜水艦乗組員でテストされて好成績を収めた。戦争中、覚醒剤はドイツにおいて次々と改良されていったが、結局は敗戦の後、ドイツが保有していた大量の覚醒剤のデータは散逸し、ドイツ軍における覚醒剤の歴史に(表向き)終止符が打たれたのであった。しかし、実際は東西ドイツ融合まで、西ドイツも東ドイツ覚醒剤を保有していたのが最近の暴露文書により明らかになっている。それほど覚醒剤というのは軍隊にとって魅力的なのである。

ドイツ軍における覚醒剤の歴史はこのようなものであるが、次は具体的な「製品」を紹介していきたい。

 

3.具体的覚醒剤製品

a.Panzerschokolade

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Panzerschokolade(戦車チョコレート)と名付けられたこのメタンフェタミン含有チョコレートは大戦中戦車兵、そしてそれ以外のあらゆる兵種に大量に配布された。戦車搭乗員はペルビチンの最初期の配布テストにも選ばれたように、非常に多くの苦痛を味わう。唸るエンジン音、嫌な音を立てる車体、乗り心地の悪さ、敵と接敵する緊張、主砲の発射音・ガス、着弾時の衝撃、死の恐怖…。これらを軽減するために盛んにメタンフェタミンは使用された。長時間の戦車戦においてこれらのメタンフェタミン含有チョコレートはかなりの成果を残した。「異常」とも言える戦車内のあの環境で戦車兵が勇ましく長時間戦えた要因の一つとして、これらのメタンフェタミンの効果があったのは忘れてはならない。もちろん、これらの処置はドイツ軍だけではなく、連合国側でも取られていた。

 

b.Stuka-Tabletten

メタンフェタミンの持つ集中力の増強は空軍兵士にも大きな利益をもたらす。長時間、空のあらゆる範囲に注意をめぐらし、緊張感を持って操縦を行わねばならないパイロットにとってメタンフェタミンの効果は望ましいものだった。ドイツにおいては「スツーカ錠剤」、英語圏では「パイロットの塩」とあだ名されるメタンフェタミン含有製品はあらゆる場面において兵士の心強い味方であった。戦車チョコレートと同じように、これらの処置は連合国側でも同様であり、連合国側では主にアンフェタミンが使用されていた。

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アンフェタミンを摂取せよ!』と述べ立てる連合国側のポスター

 

4.終わりに

メタンフェタミンアンフェタミンが軍隊で乱用されたのはその望ましい効果によるものだった。集中力を長時間維持させ、気分は高揚し、食事を必要としなくなり、眠らなくても精強に戦える…そのような夢のような効果が覚醒剤にはあった。もちろんその副作用は非常に重い。脳は萎縮し、死に至ることさえある。しかし、戦争中の兵士たちにとって、覚醒剤による「未来の死」より、「10分後の敵弾」のが怖かったのだろう。今回はドイツを取り上げたが、これらの覚醒剤はドイツ以外でもアメリカ、ソ連、日本…等でも大々的に使用されており、その後遺症は深い傷を残した。我々が第二次世界大戦を語るとき、軽視されがちな覚醒剤であるが、たまには思い出すのもいいだろう。風化させてはならない戦争の要素の一つだからである。戦争に覚醒剤がつきものなのは今も変わらない。アフリカの内戦地域では今も覚醒剤は軍公式で大量に使用されている。我々人類が覚醒剤を根絶できるのは戦争を根絶できたときなのかもしれない。それがいつくるかは誰もわからない…。

 

おまけ:覚醒剤の作用と副作用

覚せい剤アンフェタミン類)の作用機序は, シナプス前部でのモノアミン類(ドパミンノルアドレナリン)の放出を促進し、再取り込みを抑制することによって、神経伝達物質であるドパミンやノルエピネフリンの脳内シナプス間隙における濃度を上昇させ、その結果中枢神経系を興奮させると考えられている。

覚醒剤を使用すると、目が眩むような強烈な快感を体験し、やがてそれが、多幸感や高揚した気分に変わってゆく。摂取してから30分位は強烈な興奮と快感を覚えますが、その後は3時間から12時間位にわたって覚醒状態が持続し、その間、多くの場合、使用者は眠ることも物を食べることもできない(食べても吐いてしまう)。覚醒剤使用者は、多くの場合は、中枢神経興奮作用により一時的には気分が高揚し、自信が増し、疲労感がとれるように感じるが、効果が切れると激しい抑うつ、疲労倦怠感、焦燥感に襲われる。

また連用により、脳のドパミンニューロンが賦活され、幻覚や妄想などの精神病症状が出現します。覚醒剤は乱用によって攻撃的、暴力的傾向を起こしやすく、依存性が強く、長期の後遺症を残しやすいために、もっとも危険な薬物とされている。ツイッターで砂鉄と名乗るアルファが覚醒剤は危険ではないと述べたが大嘘で、多くは脳に回復不可能な損傷をもたらすのである。みんなは絶対にやめよう。覚醒剤と類似の効果をもたらす物質にリタリンエフェドリンがあるが、これらも脳に損傷をもたらす。

 

 

*1:覚醒剤とはドイツ語のWeckamin=覚醒アミンから来ているとされる

*2:メタンフェタミン覚醒剤の親玉と言っていい。現在でも「クリスタルメス」などと称されて各国で非合法に大量に乱用されている。日本において報道される覚醒剤の殆どはこのメタンフェタミンである。