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VKsturm’s blog

Twitterの@teslamk2t の長文用

市販されていた麻薬含有商品たち─欧米の「大麻薬時代」─

1.はじめに

今日禁止されている薬物の多くは、かつて合法的に入手可能だった。 この記事では、19世紀末〜20世紀半ばの間に広く利用可能だった多くの「向精神作用」を持つ薬物を紹介したいと思う。お気楽に読んでください。

 

2.背景

 かつてほとんどの製薬会社、複数のスパイス(香辛料)生産会社はアヘンのような強力な麻薬を含む製品を生産していた。 これらの麻薬生産会社は、今日よく知られている企業である。 かかる企業の商品展開において強力な精神作用を持つ物質を取り入れるのは、19世紀〜20世紀初頭の間に一般的だった(「大麻薬時代」とも呼ぶ)。 これらの物質の中毒性や依存性が認識されていなかったからだ。

 向精神物質の禁止は、米国および欧州で徐々に進化してきた。 アヘン含有製剤のアヘンチンキ*1は、 18世紀以来広く利用されていた。 モルヒネ、コカイン…これらはあらゆる病気を治す奇跡の治療法と考えられていた。 19世紀後半の間に、多くのメーカーが誇らしげに、「我社の製品にはコカインやアヘンが含まれている!」と喧伝した。 これから紹介する『ミセスウィンズローのスージング(なだめかし)シロップ』などはモルヒネを含有していたが、これは乳幼児に盛んに使用された。 20世紀の初めになってやっと。コカインやアヘンの常習的な使用の弊害に人々は気づき始めた。 これは、製品からコカインやアヘンの除去(例えば コカ・コーラ )につながった。また、製品ラベルに成分表を表示することを定めたThe Pure Food and Drug Act (1906) =1906年度純粋食品医薬品法の導入につながった。 それにもかかわらず相変わらずアヘンのような標準的な麻薬鎮痛剤は容易に入手可能なままであった。ベンゼドリン吸入器*2は1950年代初めまで処方箋なしで販売されていた。 またアメリカではコデイン─ブロンに含まれているといったらわかるだろう─は1980年代初めまでは、ほとんどの市販鎮咳剤に含まれていた。

 

3.コカイン含有商品

 コカインは歯痛や頭痛用の薬、各種カタルを緩和するための薬に使われていた。コカインの数多くの有益な効果(鎮痛等)を見込んだ薬と同時に、完全に娯楽用途に振り切ったコカイン含有ワインなども存在した。また医療従事者向けを狙ったコカインを主成分とする局所麻酔薬などもあった。

 

『C.F. Boehringer & Soehne (ドイツ)の文鎮広告。』

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「世界最大のキニーネとコカインの生産工場を持っています」と書かれている。この会社はコカインを生産していることに誇りを持っていたようだ。

コカ・コーラシロップ』

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20世紀の早いうちに、コカ・コーラからは明確にコカの葉または、コカの葉の主要成分のコカインは除去されるようになるが、それ以前は含有されていた。

 

 コカインは有効な局所麻酔薬である。コカインの最も初期の用途のいくつかは、その局所麻酔特性のためであった。 今日使われるリドカインとプロカインのような局所麻酔用の化合物コカインで発生する、多幸感を引き起こすような「副作用」を発生させない。以下は麻酔作用を狙った市販製品たちである。

『コカイン歯痛ドロップ』

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これは当時子供を持つ親に大変人気があった。麻酔作用だけでなく、ぐずる子供を「より良い」気分にさせ、なだめかすことができたからだ。子育ての必需品とまで言われた。

『コカイン含有のど飴 』

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「歌手、教師、演説者には欠かせません。」とある。 酷使した喉の痛みを静めるのもそうだが、それよりもコカインの多幸感がより良い演説や歌唱を提供したと思われる。この当時、各地にある薬局は、先に紹介したようなコカイン生産会社などから製品を買い付け、独自のラベルを貼り付けたり調合したりして、その地方の消費者にあった商品としてそれらをパッケージングして売っていた。

 

『メトカーフのコカ・ワイン』

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これは市民が普通に入手可能なコカイン含有ワインの一つだった。 これらは間違いなく娯楽目的に消費されたが、あくまでメーカーと消費者は薬効を主張していた。

 

『ヴィン・マリアーニ』

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ヴィン・マリアーニは大手コカワインだ。この広告ではローマ法王レオ13世までもが愛用者だったことがわかる。この他、このワインは文字通りあらゆる人々が気軽に多幸感を得るために飲んでいた。

 

マルティン・コカワイン』

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このコカワインはMaltine社 (アメリカ) によって生産された。記録によると虚弱体質の改善や食欲増進に使われたという。

 

『ワイン・オブ・コカ』

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今まで上げてきたようなコカワインの効果の他に、ブラード&シェッド社は、船酔いを和らげるのに有効であると主張した。 また、同社はこう宣伝している「アヘンやアルコールの習慣を(持ちましょう)」。

 

『バーネットのCOCOAINE』

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COCOAINEとは造語でココナッツ(COCONUT)とコカイン(COCAINE)を組み合わせた語である。つまり、これは頭髪用品だが主要成分としてコカインが含まれている…のではない。実はココナッツオイルが主成分でコカインは含まれていないのである。つまり如何にもコカインが含まれている風の名前をつけて消費者に誤認させて買わせるという、今でもありそうな手法の商品である。バーネットとは製作者のジョセフ・バーネットの名前である。 逆説的に言えばこれは消費者がそれだけコカインを望んでいた、万能薬だと思っていた証明にもなる。つまり、コカインのニーズがあったのだ。

 

4.アヘン含有商品

 アヘンベースの製剤は、コカインを含有するものよりも更に多く採用されていた。 アヘンチンキは、2世紀以上に渡り広範に使用されていたのである。19世紀初頭におけるアヘンからのモルヒネの単離およびヘロインの「開発」(1898年)は、アヘンより効果的な治療薬が発見された!と賞賛されていたくらいだ。

 現代人にとって、アヘンの乱用は「19世紀の重大な健康問題である。」としか捉えられない。 しかし、これは誤っている。アヘン剤の使用に関しては当時の状況をも考慮する必要がある。 当時コレラマラリア赤痢の死亡率は非常に高く、アヘン剤は、これらの病気に対していくつかの治療法を提供していたのである。(現代でもアヘンは赤痢の最も効果的な治療法の一つである。)。

 一部の論者は、当時のアヘンベースの医薬品の入手の容易さに関して、その副作用や中毒性が奪ったよりも多くの命を救ったことを示唆している。 慢性的なアヘン剤使用の有害な影響は、19世紀後半の間に段々と認知されるようになった。この要因は、アヘン剤の必要性の減少…つまり19世紀後半の公衆衛生の改善は、コレラ赤痢を減少させた。更に湿地の土壌改善はマラリアの減少を齎し、アセチルサリチル酸の導入(アスピリン。1899年)は、中等度の疼痛緩和のためのアヘン剤に代わる代替医療を提供したのだった。この効果を無視し、安易に当時を批判することは許されない。もちろん賛成もできないが。

 

『スティックニーアンド・プアーズ・パレゴリック』

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これはMcCormick & Company(現在も存在する超有名スパイス会社)の看板商品として配布されていた。 この商品はアヘンとアルコールの混合物である鎮痛剤であった。 ラベルによると幼児、子供、そして大人のための用量がご親切に書いてある。 46%のアルコールを含み、加えてアヘンの効果もあり相当な鎮痛作用を発揮しただろう。

 

バイエルン社のヘロイン』

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バイエルン社はアスピリンで有名だが、図にあるようにヘロインも同社の看板商品であった。鎮咳剤として1900年から販売されていたという。

 

『グリコ・ヘロイン』 

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この雑誌広告はマーティンH.スミス・カンパニー製のグリコヘロインのものである。 ヘロインは鎮痛剤としてだけでなく、喘息、咳、肺炎治療薬として使用されていた旨がわかる。 同社はグリセリン(多くの場合、砂糖やスパイスを加える)とヘロインを混合させ(=グリコ・ヘロイン)、経口摂取用の口当たりのよいアヘン剤を作り、大儲けした。

 

『Antiasmatico No.4(第四号対喘息薬)』

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フレイザータブレット社製のこのチンキ(水剤)はヘロインが主成分であり、喘息に対する「特効薬」として重宝されていた。

 

『Vapor-OL (opium) Treatment no. 6(第六号アヘン蒸気治療薬)』

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このアルコール入りアヘン含有喘息治療薬は喫煙用の薬である。アルコールを含んだ揮発性液体は、小型灯油式気化器(下記を参照せよ)によって加熱されて気化し、吸引された。アヘン以外の他の物質も同様に気化器で使用されていたが、この混合物は、おそらく効力・即効性どちらも強いものであり多くのリピーターを確保しただろう。

 

『VAPO-Cresolene』と『Cresolene』

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Vapoとはラテン語のVapor(蒸気)から取られた語で、後半のCresolene示すようにこのランプはCresolene*3をベースとした医薬品を気化させるために使われた。 しかし、これはまた、上記に示したアヘン系喘息薬などの他の製品にも広く使用された。19世紀は喉の痛みの治療や喘息の治療といえばこのような気化器で何か薬剤を吸うのが主流で、ベッドサイドなどに常に置かれていた。

 

『ミセスウィンズローのスージング(なだめかし)シロップ』

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ミセスウィンズローのスージングシロップは、母親や保育従事者に不可欠な薬だった。当時の激務に追われる労働者階級が「子育て」するにはこのようなものを使わなければ不可能だったのだ。1オンスあたりモルヒネ65 mg相当を含み、それが騒がしい幼児を静かになだめつかせた(スージング)。 これは労働に追われる母親を大いに助けただろう。 この会社は、1887年からレシピブック、カレンダー、およびトレーディングカードのような様々な販促グッズを使用し、一大ブームを巻き起こしたのであった。この薬の悪質な点は、これらのスージング効果の源泉がモルヒネだと明記しなかったことだ。

 

『納税印紙2セント─アヘン用』

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1906年度純粋食品医薬品法が導入されるまで薬などの成分をラベルに表示する義務はなかったが、アヘンやその他の麻薬を含む製品は1ボトルにつき特別な税を支払うこと、この納税印紙で封することによって税が支払われたこととを証明する必要があった。つまり政府公認であったわけであるし、税収源でもあったのだ。納税印紙に子供が書かれているのがなんとも皮肉である。当時は先に紹介したように子供にも大量にアヘンベースの医薬品が使用されていた。

 

『アヘンパイプ』

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アヘンパイプによるアヘン喫煙はアヘン戦争などもあり中国の印象が強いが欧州でも盛んに行われていた。写真は1900年に撮られたハイデルベルク大学の学生達である。アヘンの喫煙はアヘン摂取の一般的手法で、大学生、医者、弁護士等のインテリに特に人気があった。主に娯楽目的だっただろう。

 

5.アンフェタミン含有商品

 アンフェタミンは、コカインやアヘン以降の製品である。 一般的にイライラの解消、気力の増強などのメンタルヘルス用途、酔い止め、活力剤として使用されていた。 アンフェタミンは1970年代まで大変人気があった。アンフェタミンうつ病治療、統合失調症治療、無気力症、酔い覚まし、筋力増強剤などとして大々的に用いられていた。*4

 

『ベンゼドリン(ラセミアンフェタミン)吸入器』

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この商品は1950年代初めまでは店頭入手可能だった。*51930年代末FDAの規制によってアンフェタミン製剤の医師の処方箋が必要となった時、世の中のジャンキーたちはベンゼドリンに目をつけた。この薬は処方箋なしに買えた「鎮咳薬」であったためだ。1930年代末〜1960年代までの間、つまり幻覚剤全盛期を迎えるまでのアメリカのジャンキー文化のメインストリームがこのベンゼドリンだった。 この薬はいくつかの航空会社でも飛行機の離着陸時の不快感を最小限にするために乗客に提供していた。 パンアメリカン航空のパンフレット等ではCAへのオーダーメニューの中にベンゼドリン吸入器の記載がある。日本におけるヒロポンメタンフェタミン)のように兎にも角にも乱用され、夜勤、激務、試験勉強、夜遊び等で大々的に使用されていた。

 

6.おわりに

 このようにかつて多くの麻薬製品が大体的に使われていたのである。代替医療がなかったとはいえ、恐ろしいものであったのは事実だ。

 アンフェタミンなどに関してはWW2中に軍用として大量生産・大量消費された事実があるがこれは後に簡素に記事にしたいと思っている。ヒロポンメタンフェタミン)等もね。

 この記事で「へ〜そういう時代もあったんだなあ」と軽く思っていただければ幸いである。なにかご意見等あったらツイッターまでお願いします。

 

 

 

*1:アヘンをエタノールなどに溶いたチンキ=水剤。鎮痛に使われたが、娯楽のために乱用された。これらの娯楽用途では主に気化させて吸引していた。愛用者に米国大統領リンカーンの妻などがいる

*2:アンフェタミンを含有する薬剤。アンフェタミンの末梢血管収縮作用を利用し、鼻や喉の鬱血や腫れを収めるのに使われた

*3:19世紀に存在したコールタールをベースにした薬。現存せず

*4:現在、アンフェタミン関係の薬はADHDナルコレプシーの治療の最終手段として用いられている。中枢神経系を興奮させるために効果があるのだ。Evekeoというアンフェタミンベースの新薬が治験されていたことは記憶に新しい。

*5:現在アメリカでこの薬の持つ中枢神経系興奮作用による強力な減量効果にあやかってベンゼドリンという薬があるが、これにはアンフェタミンは含まれていない。興味があったらオオサ◯堂等で調べてみるといいだろう